筋力トレーニングの書籍類や参考書、スポーツジムなどの初心者講習で配布される資料等によく記載されているトレーニング原則。
スポーツアスリートであれば、トレーニング5大原則や7大原則といった筋力トレーニングを行なう上でのポイントをまとめた項目を目にしたことがある方は多いだろう。
ここでは、この最も基本的とも言える筋力トレーニング7大原則について初心者向きに解説を加えていくことにする。
まず、ここで紹介するトレーニング7原則とは以下の7項目の原則、及び法則を示すのでチェックしておこう。
【トレーニング7原則】
①オーバーロードの原則(過負荷の原則)
②漸進性の原則
③全面性の原則
④反復性の原則(継続性の原則)
⑤個別性の原則
⑥意識性の原則
⑦特異性の原則
この7原則はトレーニング経験を積んでいくと解るが、あまりにも当たり前の原則ばかりが並んでいる。
やや大袈裟に「トレーニング効果を高める7大原則!」などとまとめられる事が多いが、実際は筋トレの基本中の基本項目の集まりなのだ。
私の場合はこの原則を初めて学習した際に特にインパクトも刺激もなく筆記テストにクリアできる程度の暗記して行なっていなかった。
しかし、多くの書籍や参考書でこれらの原則が説かれていることを踏まえるとやはり重要な項目であるという事はおおよそ理解できるもの。
実際にあまりにも基本的なこれらのトレーニング原則を深く理解し明確に意識してトレーニングの実践を継続し続けたならば、より短期間でより大きな効果が得られる事も今では解る。
要はこの7原則はただ学ぶのではなく毎回のトレーニング時に強く意識付けしていく事が重要であり、逆に言えば当たり前すぎる原則でもある事から毎回意識するのが難しい基本原則であるとも言える。
前置きが長くなったが、ここからは早速トレーニング7原則の内容について確認していこう。
オーバーロードの原則(過負荷の原則)とは、筋力トレーニングの原則の中でも基本中の基本とも言える法則のようなものである。
過負荷とはより通常の負荷を超える負荷を課すという意味があり、簡潔に言えば筋力トレーニングで扱うウエイトを徐々に重いウエイトへシフトしていく事を言う。
このオーバーロードの原則を理論的に把握する為に最も重要となる要素のひとつに以前ご紹介した超回復理論が登場する。
超回復とは、トレーニングによって破壊された筋細胞組織が休養期間中にたくさんの栄養素を取り込みながら修復し、修復後の筋肉細胞が前回のトレーニング開始前の状態よりも一時的に強く太くなる現象のことを示す。
この超回復のタイミングは一時的なものでありトレーニング実施後から数日中に訪れるこの超回復のタイミングをしっかり捉えることができたならば、少しずつではあるがよりヘビーなウエイトを扱うことができるようになることを意味する。
よりヘビーなウエイトを扱うことが出来るようになると筋細胞、筋繊維はより太く成長する。
筋肉が発揮する筋出力は筋断面積に比例することから、筋細胞、筋繊維が太く成長することで全体的な筋力アップが達成されるという訳である。
逆にいつまでも同じ重さのウエイトを扱っていた場合は筋肉のサイズの成長も遅くなりトレーニング効果が薄れてしまう為、筋力アップがなされた場合は適切なウエイト重量へ徐々にステップアップしていくオーバーロードの原則が重要となってくる。
漸進性(ぜんしんせい)の原則とは、トレーニングのレベルを徐々に高めていく事を意味する原則のこと。
漸進性の漸進の意味は、順を追ってだんだんに進むことを意味する言葉である。尚、対義語としては急激に進む急進性という言葉がある。
筋力トレーニングでは超回復の過程を得て筋肉が前回のダメージに耐えうる筋肉へ少しずつ変化していくため、急激にウエイトを高めてトレーニングを実践したとしてもその重さに耐えうる筋力が備わっていなければトレーニングを実践することができない。
例えば大胸筋の代表的なトレーニング種目であるベンチプレスを行なう場合、前回のベンチプレスで60kgのウエイトを8回挙上できた選手は今回のトレーニングで扱うウエイトは62.5kg、もしくは同じ60kgのウエイトで8回以上の挙上を目標とするように少しずつ筋肉の成長に合わせてトレーニングレベルを高めていく事を意味する。
順を追って徐々に負荷を高める①オーバーロードの原則(過負荷の原則)と近い性質を持つことから、この2つの原則は「漸進性過負荷の原則」として1つの原則、法則として扱われるケースも多い。
尚、この漸進性の原則を意識して筋力トレーニングのウエイトを徐々に高めていく際にウエイトをどの程度重たくしていけば良いのか?というステップアップの判断基準として利用される計算式が1RMを利用する計算方法である。
筋力トレーニングの目的によって扱われる重量は異なってくるが、これから筋力トレーニングを本格的に始めてみようと思われている方は、1RMの算出方法をしっかり学習しておこう。
全面性の原則とは、文字通り筋力だけでなく様々な能力のアップを図りながらトレーニングを実践する必要性を意味する原則のことである。
例えば小学校などのクラブ活動や習い事では、実践競技の基本的な動きを意識した技術面の練習が多く実施される。
但し、この時期は技術だけでなく体の使い方やバランス感覚などの能力アップも大切であるため、練習中に「おにごっこ」がはいっていたり「押し相撲」や「スキップ」等の項目が多く取り入れられている。
また中学生の部活動になると、体力をつけるための学校の外周ランニングや柔軟性の向上を目的としたバリエーションに富むストレッチング等、新しい要素を取り入れたトレーニングが行われるようになってくる。
そして高校生では、本格的なバーベルやダンベルを使用した筋力トレーニングが取り入れられるようになり、技術力を高める部活中の技術練習、体力・スタミナを高める外の走りこみやランニング、柔軟性を高めるストレッチなど、様々な要素の全体的なレベルアップを計るトレーニングメニューへと変化していく。
どのスポーツ競技であっても複数の能力が必要となる為、スポーツアスリートの場合は全体的にバランスよくトレーニングを行なう全面性の原則が重要となる訳である。
反復性の原則(継続性の原則)とは、シンプルにトレーニング効果を得る為には1回のトレーニングでは得られない事を示す原則。
これはトレーニングに限る話でもないため解説の必要がないかもしれないが、筋力アップを目的としてトレーニングを行なうのであれば1回のトレーニングで終わる事はまずないと思う。
しかし、現実的には筋トレを始めて1ヶ月以内に最初にプランニングしたメニューを継続できなくなるケースが大半である。
筋力トレーニングでは、このあまりにも当たり前で言うまでもない「継続」が最も難しい課題であると言えるかもしれない。
尚、この課題を完全に克服できるメニューは100%存在しない。
理由は、メンタル面の問題と後述する個別性の問題がある為である。個別の病気や怪我などを防止することは不可能である。
優秀なスポーツトレーナーはこの継続性という部分に最初から本格的に取り組み、一定の時間をかけて成果を挙げることをプランニングしている傾向にある。
余談だが初心者の方がトレーニングを継続させていく簡単なポイントとして、トレーニング日を少なく設定するという方法がある。
「週4回ジムに通ってトレーニングしよう!」
こんな感じで意気込んでいるのであれば、週1回~2回に最初から変更してしまう。もし週1回と決めているのであれば月2回にまでトレーニング回数を落とす。
うそ臭い話に感じるかもしれないが、たったこれだけでジムの会員さんの継続率が上がった経験がある為、シンプルだが有効であると断言できる。
尚、スポーツトレーナーの方の場合、実際は月2回と定めた会員の方がもし週1回ジムに通ってきた場合はそこで一気に褒めて上げる。
「目標より多くきたら儲けモンですね!」
「やっぱり来ちゃいましたかぁ。実は待ってたんですけどね!」
そんな感じの軽い対応で良い。
目的意識がずば抜けて高いアスリート選手の場合などは話は別だが、トレーニング初心者が継続する為のポイントは、「週2回トレーニングをしなければいいけない…」という思いを「週2回来れたら儲けモン」と変換できるかどうか?であると思う。
スポーツトレーナーの方は一度試してみてはどうだろうか?
個別性の原則とは、個々のトレーニング実践者の状況や体力等を考慮しトレーニングプログラムを実施する必要性を意味する原則。
この個別性のプログラムを組む仕事をしているプロがスポーツジムなどのトレーナーである。
尚、個別性を判断する基本的な判断材料の目安として覚えておきたいポイントは以下の3つの項目が挙げられる。
個別性を判断する基本的な判断材料の目安 | |
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指標 | 詳細解説 |
年齢と性別 | 年齢と性別は最も基本的な指標となる。小学生・中学生・高校生・大学生・社会人・中年・シルバー世代と年代によってもプラグラムは変化すべきであるし、男性と女性では扱えるウエイトの量も基本的には異なるものである。 |
目的 | トレーニングを行なう目的が異なれば、同じ部位の筋肉を鍛える場合でもトレーニング手法からトレーニング種目、扱うウエイトの幅も大きく異なる。筋肥大を目的とする選手に1RMの50%程度のウエイトを使用したトレーニングメニューを継続させても効果は得られにくい。逆に健康維持目的の方にヘビーウエイトを使用する激しいトレーニングメニューを組んでも心が受け付けないもの。 |
状況・季節 | シーズン中であるのか?OFFシーズン中であるのか?怪我の有無はないか?など選手の状況によって適切なトレーニングプログラムを準備する必要がある。 |
個別性の条件は上げればキリがないが、上記の基本的なポイントを意識してプログラムを選択することでトレーニング効果がより一層高くなる可能性を持つ事になる。
意識性の原則とは、トレーニングに対する意識、トレーニング中の集中力などを意味する原則のこと。
筋力トレーニングの効果は、実際にトレーニングを行なっている部位への意識を強く持つ事で効果が高まる事を多くの選手が経験している。
これは集中力と言い換えることもできるが、意識性の原則には「このトレーニングを行なっている目的は◯◯である」といったメンタル部分的な意識性も含まれている。
例えば、バレーボール選手のA君がチームの監督に「腹筋を鍛えておきなさい」と言われ腹筋トレーニングをなんとなく行なうケースと、バレーボール選手B君が「スパイク力を強化するために3ヶ月以内に強い腹筋を作り上げよう」と強い目的意識を持ってトレーニングをした場合では、同じトレーニング期間であった場合にB君の方が効果が得られる可能性が高いという事を意味している。
また前述したようにトレーニング中に、そのトレーニング種目で鍛える対象となる筋肉を強く意識することはトレーニングの質の向上にも繋がる。
尚、対象部位への意識性を高めるオーソドックスな方法としては、鍛えている部位を直接手で触れる方法がある。
例えば、事例のように腹筋トレーニングを行う場合は、腹直筋に指先を触れた状態で指先で感覚を感じながら腹筋トレーニングを実践すると効果が得られやすくなる。
特異性の原則とは、筋力トレーニングの動作過程で行われている筋出力方法で筋肉は成長する事を意味する原則のことである。
例えば陸上競技の長距離種目であるマラソン選手が、100M短距離のダッシュ系のトレーニングばかり継続していても爆発的なラストスパートを発揮できる脚力がつく可能性はあるが、それだけでは長距離走のトレーニング効果が発揮されにくいことを意味する。
実際は長距離ランナーであってもダッシュ練習を取り込みはするが、それは練習の中の一部分や一定の期間での話であり、やはり全般的な練習は長距離走の走り込み練習が主体となる。
同様に野球の投手が肩を強くするために三角筋の筋力トレーニングをがんがん実践しても投球動作と全く異なるトレーニングばかり継続していた場合は、筋力トレーニング効果を投球動作に活かすことができない可能性を持つことになる。
その為、野球の投手が行なう筋力トレーニングには軽いウエイトやチューブなどを使用した肩甲骨周りのインナーマッスルトレーニングが広く実践されている。
これは特異性の原則を意識し、より実践に近い動作を含むトレーニング種目を選択している証とも言える。
尚、スポーツ選手が行なう実際のトレーニングは全般的な筋力強化を計るトレーニングメニューと、競技動作と連動する動きが含まれているトレーニングメニューの双方を状況に合わせて組み込んでいく流れが主流となっている。