スポーツアスリートが運動を行なう際にはたくさんの筋肉が動員してパフォーマンスが発揮されている。
この筋肉の働きがパフォーマンスに大きな影響を与えていることはご存知だろう。
その為、アスリートは実践競技のスキル練習だけでなく身体機能の向上、特に筋力トレーニングのウエイト比重を徐々に高めていくことになる。
この筋力トレーニングで鍛えられるのはもちろん筋肉がメイン。
中でも骨格筋と呼ばれる自分の意思で動かすことが出来る随意筋のトレーニングである。
筋肉は収縮を行いながら強い筋力を発揮する。
「等張性筋収縮」「等尺性筋収縮」などの筋出力がなされる場面もあるが、ここでは筋収縮が行われるメカニズムについて学習していこう。
骨格筋とは、骨格を形成する自分の意思で動かすことが出来る筋肉群の総称のこと。
骨格筋という名称からも解るとおり、この骨格筋と呼ばれる筋肉群は全て骨に付着している。
解りやすい筋肉で例えるならば上腕二頭筋(力こぶとなる上腕の筋肉)をイメージするとわかりやすい。
この上腕二頭筋は二頭筋と呼ばれるとおり2つの筋頭(長頭と短頭)を持つ筋肉で長頭は肩甲骨関節上結節から肩関節をまたぎ上腕を経由して肘関節をまたぐ2関節筋。短頭は同様に肩甲骨烏口突起から肩関節、肘関節をまたぐ2関節筋。
二つの筋頭はそれぞれ橈骨上端に付着している。
上腕の筋肉が力こぶを形成するようなイメージで収縮すると付着している前腕の橈骨が引っ張られ前腕(肘から手首にかけての部分)が持ち上がる。
これは前腕が持ち上がる基本的な仕組み。
この筋収縮は自らの意思によって初めて運動がなされる為、随意筋とも呼ばれる。
骨格に繋がり筋肉の収縮の伸展によって骨格が動く筋肉が骨格筋。この骨格筋は全て随意筋であると覚えておこう。
※骨格筋は全て随意筋である
筋収縮はこのように何かの運動を行おうとした際に筋繊維の長さが伸びたり縮んだりしながら筋出力を発揮する。
心臓や内臓などの筋肉は意識を必要としなくても動いている筋肉(不随意筋とも呼ぶ)ではあるが、この心筋などの働きも、実際は筋収縮によって行われる。
ここでは筋肉が伸び縮みしながら筋出力を発揮している感覚を掴んでおこう。
スポーツアスリートが運動を行う際には必ずエネルギー源が必要。
運動をしている子供は、たくさんのご飯を食べよう!というのは、成長期という事だけではなく、運動によってエネルギーをたくさん消費する為でもある。
ご飯を食べる ⇒ 運動をする(エネルギーの消費) ⇒ ご飯を食べてエネルギーを補充
基本的にはこのシンプルな流れをしっかり把握しておけば良い。
近年、スポーツをしている子供が食事からしっかりとした栄養素を補給できない子供が増えている為だ。
まずは、運動でエネルギーをたくさん消費していること。そして消費したエネルギーは食事で補給しなくてはいけないことを明確に意識する。
どんなにハードな部活動の練習などがあったとしても、練習後はしっかり食事を摂取する。シンプルだが現実は難しい。
ここがクリアできてきたら、今度は筋細胞のエネルギー代謝のメカニズムをちょっとずつ勉強していくと色々なことが見えてくるようになる。
我々ヒトが運動をする際には、エネルギー源が必要なのは解っている。そのエネルギー源とは炭水化物、糖質、たんぱく質、ビタミン類、ミネラル類と幅広い。
「では、筋細胞はどのようにエネルギーを供給して、そのエネルギーをどのように代謝しているのだろうか?」
ここで登場するのが以前にも解説したATPこと「アデノシン三リン酸」である。
アデノシンはリン酸を放出する度に運動エネルギーを得ることができる。前回の運動エネルギーを発揮するATP(アデノシン三リン酸)⇒ADP(アデノシン二リン酸)の基本原則の流れである。
筋収縮とはすなわち筋肉にとっては「運動」を意味する為、ここでもやはりATPの存在が不可欠となってくるのである。
※筋収縮運動が行われる際はATPが不可欠
尚、筋肉を構成する単位である「骨格筋細胞」は非常に多くのエネルギーを消費する。これは筋量にも比例する為、筋肉の量が大きいスポーツアスリート程、たくさんのアデノシン三リン酸が必要となってくることも見えてくる。
また筋収縮のメカニズムを学ぼうとすると、筋繊維や筋細胞、そしてアクチンフィラメントとミオシンフィラメントの伸縮の仕組みを覚えておくとより運動のメカニズムが解りやすくなる。
骨格筋とは骨と骨を繋ぐ筋肉。この骨格筋には様々な形状の筋肉が存在しその形状によって様々な形態に分類される。
文字通り紡錘状の両端が細く中央部が太い紡錘筋、武田信玄の軍配団扇(ぐんばいうちわ)のように平たくで鳥の羽のように広がる羽状筋など様々。
ここでは誰もがぼんやりとイメージしている筋肉の形状である紡錘状の筋肉(紡錘筋)を例にして骨格筋のもう少し内部にある筋細胞のしくみをチェックしていこう。
紡錘筋を構成している単位は筋繊維束と呼ばれる組織。この筋繊維束はその名前の通り筋繊維が束状に集まったもの。一般的に呼ばれる筋細胞とはこの筋繊維の事を指す。
この筋繊維を構成している単位は筋原繊維束と呼ばれる筋原繊維が束状に集まったもの。
そしてこの筋原繊維はアクチン繊維とミオシン繊維の束で構成されている。
このアクチンとミオシンで構成されている単位を「サルコメア」と呼ぶ。
筋繊維を構成する筋原繊維の最小単位はサルコメアと呼ばれる単位。
サルコメアは中央にやや太い繊維で構成されているミオシンフィラメントと、細い繊維で構成されているミオシンの両端につながるアクチンフィラメントで構成されている。
結論から言えば、このサルコメア単位の収縮が筋原繊維の収縮につながり、最終的に筋収縮へとつながってくる。
筋肉を小さく小さく分解していくとこのアクチンとミオシンで構成されるたくさんのサルコメアが伸び縮みすることで筋原繊維が伸縮し、たくさんの筋原繊維が内部のサルコメアの伸縮に伴って伸縮することで、皮膚上から目視できる筋収縮が行われていることになる。
イメージは沸きにくいかもしれないが、構成する単位別にチェックしてみるとこのようなマクロサイズの骨格筋の収縮の集まりが骨格筋細胞の収縮へとつながっているのである。
上腕二頭筋や下腿三頭筋などの紡錘筋の場合は収縮の際に筋肉がモリっと盛り上がるので筋収縮の感覚が掴みやすい。
筋収縮のメカニズムには、サルコメアと呼ばれる最小単位があり、そのサルコメアはアクチンとミオシンで構成されていることが解ってきた。
ただ、ここでひとつある疑問を抱いている方も多いと思いかもしれない。
「そのアクチンとミオシンはどのように伸び縮みしているんだ?」
という素朴な疑問。
筋肉の収縮は、内部まで突き詰めていくとアクチンやミオシンの収縮で行われるのは解ったが、その当の本人たちはどのように伸縮しているのか?
こんなことまで知ってもアスリートのパフォーマンスには影響はないだろうが知っておきたい方はこの先もチェックしていこう。
サルコメア単位で見ていくと、アクチンとミオシンは両端で軽く手を繋いでいる状態であることが解る。
しかし現実的に運動をしていないいわゆる安静時状態の場合は、このアクチン繊維とミオシン繊維の両端は寄り添ってはいるが結合はしていない。
これは安静時のアクチン繊維は、「たんぱく質のバリアー」を張っているためと考えるとわかりやすい。
※安静時のアクチンとミオシンは結合していない状態
具体的には、安静時のアクチンは「ロポミオシン」「トロポミオシン」などのたんぱく質と既に結合している状態となっている。
手を繋ぎたくてもバリアーの中から手を出せない状態。
実際はこれも人体の防衛反応のひとつでもあるが、このバリアの中からミオシンに向けて手を出すには、手を出せるようにするスイッチである「カルシウムイオン濃度の上昇」が必要となる。
安静時はアクチンフィラメントがミオシンフィラメントと結合していない状態。
この2つが結合すると筋収縮が始まるので、この安静時の状態では筋肉が弛緩している状態であることがわかる。
弛緩(しかん)とは筋肉に緊張が走っていない状態。緩んでいるリラックスしている状態のこと。
アクチンとミオシンがもし常に結合していたのであれば、これはもう大変なことになるのは何となくわかるだろう。
尚、アクチンがミオシンと結合するためには、骨格筋細胞の筋小胞体と呼ばれる組織からカルシウムを放出するという作業が必要となってくる。
神経系から刺激を受けたアクチン繊維は、筋小胞体に蓄積されているカルシウムを放出しカルシウムイオン濃度を上昇させる。
カルシウムイオン濃度が高まるとアクチンを包んでいたバリアから手を出すことができるようになりミオシンと結合ができることになる。
※カルシウムイオン濃度が高まるとアクチンとミオシンは結合する
この結合のきっかけは「神経系からの刺激」によってなされている。
もし長時間筋肉を収縮させておきたい場合は、常に神経からの指令を受けた状態を保たなくてはいけない。
「緊張を継続せよ!」という指令である。これは簡単に自分でチェックできるものなのでここで緊張状態の持続を味わってみよう。
緊張状態のチェックは道具も何もいらない。必要なのは意識だけ。
解りやすいようにここでも上腕二頭筋をベースにチェックをしてみよう。
~チェック~
①上腕を曲げて力瘤を作る
②その状態を持続する
ウエイトなどを使用しなくても筋肉を継続的に緊張、収縮させておくことは意識しだいで簡単にできること。
この筋肉が収縮している状態を保っている間は、筋小胞体からカルシウムイオンが放出され続けている状態。カルシウムイオン濃度が高くなりアクチンとミオシンががっちり結合している為、サルコメア単位は短く収縮している状態である。
スポーツアスリートが大きな大会などの直後に普段の数倍も一気に疲れが出てその場で眠ってしまったりするのは、緊張による筋収縮の継続が要因でもある。
人は緊張すると固くなり、筋肉が収縮する。これはカルシウムイオン濃度を高め続けている状態でもある為、筋細胞は疲労回復のために一気に弛緩を求めるようになると考えられる。
※カチコチの緊張時もカルシウムイオン濃度が高くなっている
骨格筋が筋収縮するメカニズムは何となく理解できただろうか?ここでは
「筋肉は様々な成分の働きによって活動しているんだな」
と何となくイメージがつかめるだけで十分。
実際にスポーツジムなどで筋トレをしている際に、「おっ!カルシウムイオンが筋小胞体から放出されたな!」
なんて感じ取っている人はまずいないし、トレーニング中に意識すべきことは別の部分にある。
しかし、トップアスリートは人体のしくみについて非常に詳しい選手が多い。
人体の仕組みを詳しく把握しているからトップアスリートまで登りつめたのか?
トップアスリートになったから人体の構造や仕組みに興味をもったのか?
どちらかはわからないが、人体に興味を持つことはスポーツ選手にとって大切なことであることは間違いない。
日本ではアスリートが人体の構造や仕組みの勉強を積むよりも技術習得やスキル練習に多くのウエイトを置く傾向があるように思う。
スポーツ競技は自らの人体の能力を競う協議でもある以上、もう少し知識の習得を重ねる時間を設けても良いのではないだろうか?
とも常々思う。
話はそれたがここでもう一度筋収縮の仕組みを再度チェックしておこう。
筋収縮のしくみを最後にもう一度、簡潔にまとめておこう。
まず筋収縮のしくみの根源は、「神経系の指令」による筋小胞体のカルシウムイオン濃度の上昇から始まった。
カルシウムイオンの筋収縮のメカニズムはまだ解明されきっていない部分もあるので今後は医療の分野でも更に研究がなされてくるだろう。
そして、カルシウムイオン濃度の上昇に伴って、「アクチン繊維」と「ミオシン繊維」が重なり合うように結合。
実際はお互いの隙間に滑り込むように重なり筋収縮系の最小単位であるサルコメア単位自体が短くなることで筋原繊維の収縮が行われる。
筋原繊維の収縮はそのまま筋繊維の収縮につながり筋繊維の収縮は筋肉の収縮と同様であるというのが筋収縮のメカニズムの一連の流れである。
※筋収縮は神経系の刺激を受けた筋小胞体のカルシウムイオン放出から始まる
筋収縮の種類は大きく分類すると3種類の収縮様式に分類することができる。
最後に豆知識として筋肉の収縮様式についてチェックしておこう。
まずも最も基本的な収縮様式が、「短縮性筋収縮」と呼ばれる様式。
筋肉が縮みながら筋力を出力する収縮方法で、力こぶを作るときに腕を曲げていく際に縮む上腕二頭筋の動きなどは短縮性筋収縮である。
椅子に座った状態でつま先をまっすぐ前に伸ばしていくと太ももの前面の筋肉(大腿四頭筋)が硬くなる。
これは筋肉が収縮した結果盛り上がった結果である。
※短縮性筋収縮=筋肉が縮みながら筋力を発揮する収縮様式
真っ直ぐにたった状態でダンベルを持ち肘を体側に固定したまま支点とし真っ直ぐ前に持ち上げてくると筋肉は短縮性収縮を起こす。
この状態でダンベルを固定した場合、筋肉の長さはこのまま長くも短くもならない。しかし筋肉は筋力を発揮し続けている緊張を続けている状態にある。
このように筋繊維の長さが変わることなく筋出力を発揮している筋収縮様式を「等尺性筋収縮(とうしゃくせいきんしゅうしゅく)」もしくは「等張性筋収縮(とうちょうせいきんしゅうしゅく)」と呼ぶ。
※等張性筋収縮=筋肉の長さが等しい状態で筋力を発揮する収縮様式
尺とは昔の日本で使用されていた長さの単位であり、どちらも等しい長さで筋力を出力している状態であることを示している。
そして最後に筋肉が引き伸ばされながら筋力を発揮する「伸張性筋収縮(しんちょうせいきんしゅうしゅく)」と呼ばれる種類。
筋収縮の種類の中では伸びながら収縮?とイメージが沸きにくい種類でもあるが、実際に筋肉痛などに大きく影響を与える筋収縮の種類はこの伸張性筋収縮であることが解明されている。(エキセントリックとも呼ばれる)
※伸張性筋収縮=筋肉が伸ばされながら筋力を発揮する収縮様式
これらの筋収縮形態は実践競技にもよるが、どの形態も試合などの実践の場面で度々使用されている筋収縮の形態である為、筋収縮の3種類についてはしっかり把握しておこう。